「災害と障害」という講演会を聞いてきました

ボランティア/災害看護

講演会参加のきっかけ

看護学生時代に、「NPO法人 札幌いちご会」で居宅ヘルパーの有償ボランティアを約3年していました。
看護師になる前に、介助を受けている本人から日常生活介助を教えてもらえたので、とても良い経験となりました。
看護師になってからも、ヘルパーが不足した時期のスポット勤務や、周年記念式典にお招きいただいて参加したりと、交流が続いています。

2018年9月6日の北海道胆振東部地震の時に、札幌でも不便を強いられた人がたくさんいましたが、その中に身体障がい者も多くいました。
「NPO法人 札幌いちご会」では、ご自身も身体障がい者であり、防災対策について全国で講演されている、熊本学園大学 東 俊裕 さんを講師に、「災害と障害」という講演会を開催することになり、「NPO法人 いちご会」に関わりのある職員やヘルパーなどには、業務の一環の研修として開催されたのです。
私にも講演会開催の連絡と、研修として極力参加してほしいというメールが届きました。
災害看護については感心が高い分野なので、とても興味深いお知らせでした。

災害とは何か

災害(Disaster)とは、コントロール不能な自然力による物理現象(Hazard)そのものではなく、社会の脆弱性(vulnerability)と復元力(resilience)という社会の側の要素を通してもたらされる結果であり、その社会現象としての側面に焦点を当てるべきといった考え方が主流と思われる。

講演会での配布資料

自身や身近な人に、身体障がい者がいない環境では、災害は万人に一律にふりかかる不可抗力のように思えてしまうものですが、全般的な地域社会と、障がい者の閉鎖的なコミュニティーとでは、大きな格差があると話されていました。
この「格差」が指すものを理解したのは、後半でお話しされていた2018年倉敷市真備町での水害についての内容を聞いた時でした。(記事の後半)

熊本地震における障がい者の状況

障がい者人口は、国民の約7%とされているようで、単純計算すると、熊本地震によって避難せざるをえない状況になった障がい者数は、12,000人ほどになる。
しかし、実際に、避難所では障がい者があまり見られなかったそうです。
支援が必要な障がい者が、支援を受けられる場所まで出てこられなかった可能性も考えられます。

障がい者の生活環境によっても、支援を受けられる度合いに差があったようです。

①入所・入院している障がい者

自身の状態を知っているスタッフがいる環境にいるので、すぐに支援を受けられる。

②通所・通院している障がい者

通所中か自宅にいるかで、状況は変わってきます。
通所中であれば、そのまま施設が避難所になる場合もあるので、自身の状態を知っているスタッフがいる環境に身を置くことができます。
しかし、この場合は、スタッフサイドに課題が生じてきます。
普段は、日勤帯の勤務しかない勤務体制の場所なので、
避難所になった場合は、24時間体制をとるためのスタッフの配置と、普段は夜勤をしていないスタッフへの配慮など、その場で采配しなければいけないのです。

③在宅で介護サービスを受けている障がい者

サービス提供者のスタッフがいる状況かそうでないかで、支援を受けられるまでの時間に大きな差が生まれます。
支援を受けられるまでの時間に差は生まれますが、電話連絡や訪問確認など、安否確認と状況把握など、サービス提供者からのアクセスがあります。

④福祉サービスを受けていない在宅障がい者

この生活パターンが、人数的に一番多いそうです。
福祉との繋がりがないので、すぐに連絡してもらったり、かけつけてもらったりしてくれる人が、少ない人が多いです。

災害が起きた時に支援を受けられやすいかは、通常時の生活が背景にあることが如実に現れました。
普段から福祉サービスとの関わりが少ない場合は、支援してくれる人が家族や友人・知人に限られてしまうので、地域社会との関わりが大きな影響を与えることになります。

「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針の概要」

平成25年8月に内閣府から発表されています。
このなかで、避難行動要支援者名簿の作成というものがあります。


(1)要配慮者の把握
(2)避難行動要支援者名簿の作成
(3)避難行動要支援者名簿の更新と情報の共有
(4)避難支援等関係者への事前の名簿情報の提供(公開は、原則事前の同意が必要)

講演会での配布資料

同意者の名簿は、社会福祉協議会や民生委員に共有されるそうですが、同意がなければ共有されません。
障がい者自身が、避難行動要支援者名簿というものが作成されていることを知らないという場合も多くあります。
また、避難行動要支援者名簿は、ただ名簿を作成するだけでは意味がないと、東さんは強く訴えていました。
誰を、どのように、どこに避難させるのか、個別に計画を作成し、実際に動けるものを作成しなければ意味がないと。
講演会の配布資料の中には、平成29年6月1日時点での調査結果として、

名簿策定済み件数 1631件
名簿策定中件数 108件

と、策定率は高いものの、

名簿策定済み1631件のうち
個別計画 策定済み 679件
個別計画 策定中 436件
個別計画 未着手 516件

と、名簿策定済み件数のうち個別計画が策定済みとなっている件数は、1/3ほどしかありません。
このような状況で、さらに、個別計画は形だけの策定済みであり、事前予知情報のない熊本地震の際に避難誘導が困難だったそうです。

西日本豪雨での被害が大きかった倉敷市真備町

倉敷市では、個別計画は未着手状態であったそうです。
そして、私は衝撃の事実を知りました。

死者51名のうち42名は、避難行動要支援者名簿に登載されていましたが、個別計画もなく、地域住民からの避難支援も受けることができずに、亡くなられたと話していました。
東さん自身も身体障がい者であり、地域の自治体が必要な支援策をとることも重要であるが、障がい者自身が、日常生活で地域の人とコミュニケーションをとって人間関係をつくっていれば、制度がなくても助けてくれる人がいるかもしれない、障がい者だからと閉鎖的にならずに、地域社会との関わりを作ろうと熱弁されていました。
二階に避難できれば亡くなることはなかったかもしれないけれど、階段をあがることができないがために、一階でお亡くなりになった方が多数いたことに衝撃を受けました。
地震や津波ではなく、浸水だったので、災害のなかでは比較的時間的猶予のある場面で、避難行動要支援者が支援を受けられなかったためにお亡くなりになったことを、在宅医療や福祉に関わる職種の方はもちろん、みなさんがお住まいの地域にも避難行動要支援者がたくさん暮らしているということを認識して日常生活を送ることが大事だと感じました。

避難所での問題点

1.一般避難所

一般避難所は、障がい者の存在を想定していない運営規則になっているので、車椅子や介助用品を使用して避難所を利用するのは困難な場合が多くあります。
小学校や中学校が避難所になることが多いですが、分離教育の日本では、一般の小学校はバリアフリーになっていません。
また、被災して避難所生活を余儀なくされているので、もともと障がい者に対する理解のないかたも多く、心理的障壁も大きいとのことでした。
物資配給でも、より多くの人に行き渡るようにとの配慮だと思われますが、並んだ人数の分しか物資をもらえないことも多く、列に並べない障がい者の分は物資をもらえないという例も多発しました。

2.福祉避難所

福祉避難所は、二時避難所という位置付けであり、「一時避難所の中で避難生活できない程の重度障害や高齢者」が対象となっており、その中から行政職員が該当者を選択して、移送することになっています。
ここで問題となるのは、「一時避難所の中で」ということ。
一時避難所にも行けないような障がい者は、対象になっていないのです。
熊本地震の時に、入居施設はすでに入居者がいますし、スタッフも被災しながらの支援であり、物資にも限りがあり、元々の入居者で手一杯の状況になっていて、福祉避難所の運営も大変なものだったそうです。

3.仮設住宅

設計当初には想定されていない障がい者も住めるようにと、あとからバリアフリーを考えた仮設住宅になってしまっています。
車椅子では入れないトイレをお風呂、段差のある居住空間、とりあえず取り付けられたスロープなど、実際に生活できるような仮設住宅にはなっていません。
障がい者や高齢者が、実際に生活できる仮設住宅を、当事者の声を反映させて設計していかなければ、災害のたびに同じ問題点に直面してしまいます。

被災地障害者センターくまもと

被災地障害者センターくまもとには、熊本地震での被災障害者から500名を超えるSOSがあり、それに対して延べ2,000人を超える福祉経験者を派遣した実績があります。
講演会でもビラを配布していました。
東さんは、この講演会の最後に、地自体に頼って任せっきりにするのではなく、障がい者が自らの命を守るための行動をとろうと話されていました。

医療福祉に関わる私達はもちろんですが、これからの時代は地域に暮らす避難行動要支援者(障がい者・高齢者)も多くなるため、地域として助け合える関係性を日常的につくっていくことがとても大切です。
災害はいつ我が身に起こるかわかりません。
他者の経験を、他人事として捉えずに、あなたの周りの方のために、考えるきっかけにしていただけたらと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました