2018年9月6日北海道での大規模停電の体験談~人工呼吸器を装着した在宅医療編~

ボランティア/災害看護

みなさんもご存じのとおり、2018年9月6日 北海道胆振東部地震で、北海道全域で停電が発生しました。
電気のない数時間~数日は、不便で不安な思いをした人が多かったのではないでしょうか。
私自身も、停電しているなか、勤務する病院へ早朝から出勤していました。
へろへろで帰路につくと、食料を調達できそうなお店はなく、帰宅しても停電したまま。
不便ではあったけれど、学びの多い経験となりました。

看護師視点で、今回の停電の経験から感じたことや気付いたことを、SNSに投稿したところ、想像を超えた沢山の反応があり、びっくり!!
「全くの未知の世界だから、知れてよかった。」
「父の透析先がなかなか決まらなくでもどかしかったけれど、現場の状況を知れたので、納得した。」
「親戚に在宅医療を受けている人がいるので、備えを考えようと思った。」
など、
私の視野での出来事を発信することが、誰かの役に立つかもしれないということに、気付いたのです。
テーマを分けて、紹介していこうと思います。

第一弾:人工呼吸器を装着した在宅医療編

あまり報道されなかったり、周りに在宅医療を受けている人がいなかったりと、知る機会が少ないのではと思いますが、在宅医療を受けている人にとって、停電は、命に直結する大問題なのです。
人工呼吸器を装着して自宅で一人暮らしをしている私の友人M君も、その一人でした。

今回の停電で経験したこと、その経験から学んだことや新たな対策をインタビューさせてもらってきたので、一つの体験談として、参考にしてもらえたらと思います。

M君の日常生活

人工呼吸器を装着して自宅で一人暮らしと一言で言っても、イメージができないと思うので、まずはM君の紹介をしますね。
脊髄損傷のため、自分で自分の体を動かすことができない状態。自分自身の呼吸では不十分なので、人工呼吸器を装着してベッド上で生活しています。

医師の往診、訪問看護、訪問リハビリ、訪問ヘルパー、訪問入浴など、医療保険や介護保険での社会資源も利用しつつ、パーソナルアシスタント制度という福祉サービスも利用して、一人暮らしをしています。
パーソナルアシスタント制度とは、親族以外の人が資格の有無に関わらず介助者として登録でき、日常生活介助にあたることができる、自治体ごとの福祉サービスです。
パーソナルアシスタンス(PA)制度って知っている?
飲みにも出かけますし、野球観戦やライブ参加もしょっちゅうで、とてもアクティブなM君です。
「障がいがあるから思うように外出できないなんてもったいない!もっと楽しもう!」と、介護タクシー事業も開業しています。
介護タクシー「Tomorrowland」

地震発生・停電発生!避難から帰宅するまで

1.地震発生!そして停電!

実は、M君と宿泊担当者は、この時、重大な問題が起きているとは思っていませんでした。
なぜなら、停電がどの程度のものかがわからず、長く続かないだろうと思っていたのです。
そう思っていた北海道民も多かったはず。
なので、この時点では、停電によって人工呼吸器が使えなくなる事態になるとは、全く想像しなかったのです。

あちこちから電話が来て、事の重大さに気づき始める

M君の日常生活で紹介したように、複数の社会資源を利用しているため、次から次へと安全確認の電話が鳴りました。
区役所からも電話があり、自宅で人工呼吸器を装着している人に連絡しているようでした。
M君と宿泊担当者は、停電が長引きそうだ、復旧の目処が立っていないようだ、ということを知り、停電についての正しい情報がわからないので、ひとまず入院したほうが安全なのではという医療職者の意見に賛成し、自家発電が稼働している病院に入院することを決めたようです。
人工呼吸器のバッテリー全てを使用すると12時間程は人工呼吸器の稼働は可能なので、明るくなってから移動することになりました。
(もしも、バッテリーを複数持っていなかったら、緊急で入院先を探して移動しなければいけなかったと考えると、ゾッとします。)
各方面から多くの連絡があったため、車で携帯電話を充電して利用していました。

入院

入院先は、自ら電話して交渉したようです。
当直担当者は、M君の介助に慣れている人であり、かつ介護タクシーのドライバーだったので、リフター(充電式)で電動車椅子(充電式)に移乗し、電動車椅子も乗れるようにしてあるM君所有の車にて、12時に自宅を出発して病院に到着しました。

翌日

たまたま友人の友人が同じマンションに住んでいたので、自宅の電気が復旧しているとの情報を得て、自宅へ帰りました。

備えてあってよかったもの

・人工呼吸器のバッテリーを3個持っていて、全てフル充電してあった。
・車で携帯電話の充電をすることができた。
(多方面から連絡があるため、携帯電話の電池の消耗が激しかった。)
・電動車椅子のまま移動できる車があったので、移動がスムーズだった。
・人工呼吸器を使用して一人暮らしをしているということを知っている人が多く、パーソナルアシスタント制度も利用して複数人の介助者が関わっているため、「大丈夫か?」「何かあったらすぐに行くよ。」と連絡をくれる人がたくさんいた。

必要だと気付き、すぐに購入したもの

・懐中電灯

・ペットボトルの水

・大容量モバイルバッテリー

・蓄電器(医療機器のコンセントでも使えるもの)

インタビューの最後に、M君からのメッセージ

安全な場所はないということがわかった。
札幌は地震が少ないから、安全なんだなと思っていた。
近年の災害のニュースを見ながら、いつどこで何があるかわからないとは言っていたけど、言っていただけだった。
将来自分の家を建てるときには、防災も考えて備えようと考えていたけれど、現実に、自分の身に起こるとは思っていなかった。
ここ数年で地震や台風など、日本各地で災害が起きていることを、我が身と思って備えた方がいいということを、身を持って感じた。
生命維持に電気が不可欠だから、蓄電器などは特に「高いもん」とか言ってられない。
命には代えられないから。
買って、何もなければそれでいいんだから。
今後は、安全を考慮して室内の配置も考えたい。

M君の体験談からの学び

①災害時に要支援者となる方は、連絡手段の確保がその後の安全に大きく関わる

地震・停電が発生した後、多方面から電話連絡がありました。
私も訪問看護師の経験がありますが、災害発生時は、利用者全員の安全確認の連絡をすることになっていました。
複数の社会資源を利用して在宅医療を受けることになるので、全ての事業所から電話連絡があるでしょうし、その後に避難する場合も、連絡手段が途絶えると、避難の手段も途絶えることになりかねません。
大容量モバイルバッテリーや電池式充電器、車での充電手段など、携帯電話の電源を確保できるものを準備しておくことが大事ですね。

②電気が必要不可欠な医療機器のバッテリーや蓄電器の備えが重要

今回、M君が避難まで落ち着いて過ごすことができた大きな理由は、人工呼吸器の電気が途絶えるまで12時間の猶予があったことです。
フル充電にしてあった人工呼吸器のバッテリーが3本あったことが、大きな安心材料になりました。

今回は停電のみの被害でしたが、万が一、建物や道路に避難を妨げる要因が発生した場合や、受け入れ病院の決定に時間を要する場合に、バッテリーのみでは不十分な状況も考えられますよね。
M君は医療用コンセントも使用できる蓄電器をすぐに購入しました。


人工呼吸器を何時間稼働できるかをテストしたところ、18時間も稼働できました!!
M君も私も驚きです!!


バッテリーと蓄電器を合計すると、24時間以上は人工呼吸器稼働が可能な状態を作れました。
電気が必要不可欠な医療機器を使用している場合は、何時間稼働が可能な状態であるのかを事前に確認しておくと、避難の緊急性の判断材料や、避難までの安心材料になることがわかりました。

③自分が要支援者であると、多くの人が知っていること

災害時に、「あの人は大丈夫か!?」と気にかけてもらえる人数が多いほど、災害時の救命率は上がります。
実は、私が大学4年生の時の卒業研究で、地域に暮らす身体障害者の災害意識をテーマにして論文を書いた経験があります。
要支援者がいるということを、近隣住民や友人に知っておいてもらうことが、避難や救助の可能性が高くなるということが、多くの文献に書かれていました。
実際に、M君は、人工呼吸器をつけて自宅で暮らしているということを多くの友人に発信していたため、たくさんの人から安全確認の連絡がありました。
車や徒歩で来てもらえるような人もいるということも、安心材料の一つでした。

初めて災害を経験した人の多くが口にするのは、「まさか、自分の身に起こるとは」です。
よく聞く言葉ですよね。
一度災害を経験した人は、「まさかの事態に備えておくことが大事」と言います。
そして、自分の経験から、災害未経験者に情報発信してくれています。
より多くの人が、自分と同じ失敗をしないようにと。
災害はいつどこで発生するかわからないものなので、災害経験者の教訓を活かしていけたら良いなと思います。

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