すごく幸運だったと思いますが、看護学生時代に、居宅ヘルパーの有償ボランティアを経験させてもらいました。
医療現場の人間になる前に、ケアを受ける方の生活の中に入らせてもらって、ケアを受ける方から直接教えてもらうことができたのは、私の財産になっています。
きっかけ
大学1年生の冬、部活の4年生の先輩から、「卒業して就職するとヘルパーを続けられなくなるから、あゆみやらない?」と声をかけてくれました。
私は一つ返事で「やります!」
小山内美智子さんのヘルパーを約3年間することとなりました。
これが、のちのパーソナルアシスタンス制度の、実験段階だったようです。
無資格の方でも日常生活介助ができるということの証明と、小山内美智子さんは「入院すると、看護師が障がい者の身体について知らなすぎてケアが下手」と数回の入院生活での経験から、看護学生に障がい者のケアに入ってもらいたいという希望があり、私のほかにも数名看護学生がいました。
日常生活介助を初体験
曜日と時間が固定で、私は夜のケアに入ることが多かったので、
夕食準備、食事介助、入浴介助、トイレ介助、更衣、歯磨き介助、寝る前の運動介助、など日常生活介助全般を行なっていました。
4年生の国立大学に通っていたので、1年生は看護学総論でナイチンゲールの覚え書きについて学んでいるような頃です。
まだ授業では実践的な看護は何も学んでいませんから、看護学生といえども、一般学部の大学生と同じような大学一年生をイメージしてもらえたらと思います。
上記した日常生活介助は、もちろん初めてのこと。
一度、紹介してくれた先輩と同じ日にケアに入って、一通り教えてもらいました。
小山内さんはよく「自分が服を脱ぐときにどうする?同じように脱がせてちょうだい。」と言っていました。
麻痺があるからと難しく考えてしまいますが、「やってほしいことは教えるし、わからないことは聞いてくれれば答えれるから、あなたがいつも自分でしているようにやってごらん。」という言葉が、とても印象に残っています。
病院実習に行くようになると、食事介助をしている看護師の前にお盆があり患者さんの前には何もないという光景や、ねこまんまのようにお粥に混ぜて口に運んでいる光景を見たときに、「自分がしているように」というのは、こういうことかとわかりました。
私だったら、自分の前にお盆を置き、それぞれの味がわかるように一品ずつ食べたい。
食事介助が業務になってしまうと、看護師主体の食事介助になってしまいますが、患者の手になっているということを考えてケアをすると、必然的にすべて患者が自分で食べられる時と同じようにセッティングして食事介助することになると思います。
「手が使えないから手の代わりになる。足が使えないから足の代わりになる。」ということを、小山内美智子さんの著書やケアの中で教えてもらいました。
車椅子を押して街を歩く
障がい者用トイレのはずなのに…
講演会に参加される時の介助についたことがありました。
ホテルで懇親会のようなものがあり、ホテル内の車椅子用トイレを利用したのですが、衝撃でした。
ほかの個室よりも便座からドアまでの距離が広いだけの縦長の個室。
横幅が広くないので、車椅子は、便座の真正面につけるしかありません。
私が困惑していると、小山内さんは「障がい者トイレと書いてあっても、障がい者の意見を反映させていないからこういうことが起きる。こんな障がい者トイレがいっぱいあるんだよ」と教えてくれました。
まずは、どうやったら安全に便座に座り、車椅子に戻ることができるのか、2人で作戦会議です(笑)
小山内さんも、ケアを受けるプロですから、私の力やケアの仕方を普段のケアで把握されているので、「あゆみちゃんなら、一人でいける」との判断がくだり(笑)、なんとか狭いトイレ内での移乗に成功しました。
バリアフリーとはなんだろうと、考えるきっかけになりました。
当事者にとってバリアフリーになっていなければ、バリアフリーとは言えないということを目の当たりにした瞬間でした。
映画鑑賞
シアター内までは段差がなく問題なく移動することができるようになっていました。
車椅子席に案内されて、「え!画面近い!」と驚きました。
映画館の構造上、段差を上がれない車椅子では、階段状になっている見やすい席に座ることはできません。
スロープのすぐ近くの、前の方でかつ横の方に作られた車椅子席で映画を観ることになります。
リクライニングの車椅子だったので、見やすい角度に調整できましたが、もしも背もたれが低くリクライニングができない車椅子だった場合、首が辛そうな場所でした。
良い案は浮かびませんが、車椅子でももう少し快適に映画を見られたらいいのになと思いました。
地下鉄にのり、自宅まで車椅子を押して歩く
車椅子を押して街を歩くと、普段は全く気付けないようなことにも多く気付きます。
ちょっとした段差なのに、大きな段差のように感じる。
歩道に停めてある自転車がとても邪魔。
歩道の少しの傾斜でもそちらにタイヤをとられて行きそうになる。
地下鉄のエレベーターがとても狭い。
手を貸してくれる優しい方もたくさんいた。
など、車椅子を押して一緒に歩いたからこそ気付けます。
この経験は、看護師になってから外出支援をする場面でとても役立ちました。
プライマリーの患者さんが、お孫さんの結婚式に参加することになったときに、障がい者との関わりがない方から見てのバリアフリーと実際に使えるバリアフリーが違うので、自分の目で見て確認する作業が必要であることを伝えて、現場での事前打ち合わせを組んでもらうことができました。
他のスタッフが外出支援をする際も、実際に街を歩いたことがあるかないかでは、出先でのイメージの鮮明さが違うので、準備段階の内容の濃さにも差が出てくることを実感しています。
看護学生時代に経験できて良かった
看護師として働き始めると、医療職者と患者という関係性でのケアが始まります。
医療職者から指導されてきた医療職者から、指導を受けるのです。
きっと、これが、小山内美智子さんが「看護師はケアが下手」という所以だと思います。
看護師としての知識、技術、アセスメント、他職種連携など、看護師からの指導だからこそ得られる学びも、もちろん多くあります。
しかし、ケアを受ける方の感覚、気持ち、心地よさ、不快さなどは、障がいのない医療職者から得られるものではありません。
実際にケアを受けている方から教えてもらえるものだと思います。
私達看護師は患者さんの生活の一部に参加させてもらっているのであって、主体はあくまでも患者さんにあるのですが、看護師が「仕事」になると、いつのまにかそのことが薄らいでしまうような気がします。
医療職者として働く前に、ケアの受け手の方から教えてもらい、一緒に街を歩き、患者目線で入院中の介助を行えたことが、私の根っこになってくれています。
看護学生さんも、授業も課題もテストも多く、実習もあり、他のことに目を向けることが難しくなる人もよく見受けられますが、一年生のうちにこんな経験ができたら、実習にも活かされることがたくさんあります。
興味がある看護学生さんは、ボランティアやパーソナルアシスタンス制度の介助者などを経験してみるのも良いと思いますよ。
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