障がい者自身や家族に障がい者がいる方、在宅医療に携わっている医療・福祉のスタッフでも、知らない人が多いこの制度。
医療保険や介護保険では、介助者の確保が困難となる場合も多くありますよね。
そんな方を支援してくれる制度なので、医療・福祉になにかしらの関わりのある人は、知っておくと役に立つ日がくるかもしれない制度です。
私は、このパーソナルアシスタンス制度とご縁があるのです。
札幌でパーソナルアシスタンス制度が導入される前の試験段階の時、看護学生だった私は、有償ボランティアとして参加していました。
就職後は、パーソナルアシスタンス制度がその後どうなったのかを気にかける余裕もなく働いていました。
転職をしながら私なりの働き方を模索していた看護師8年目の年に、パーソナルアシスタンス制度を利用して一人暮らしをしている方との出逢いがあり、看護師として勤めて働きながら、パーソナルアシスタンス制度の介助者として、障がい者の方のお手伝いをすることもあります。
パーソナルアシスタンス制度って、なに?
1970年代後半から80年代にかけて、地方都市オーフスで、筋ジストロフィーの方が、既存の施設や障害者組織の考え方に疑問を持ち、当事者の独自性と多様性を主張したことがきっかけで始まった制度です。
デンマークでは、「生活支援法」に組み込まれ、全国的な制度として適応されるようになりました。
障がい者が地域で自立生活をするために、介助などの面で経済的な負担がある場合、公的機関が支援することとなり、重度の身体障害者でも、本人が直接介助者を雇用・解雇して自身の生活を送ることができるようになりました。
日本では、パーソナルアシスタンス制度を最初に導入したのは、北海道 札幌市。
国の政策としても、施設入所から地域生活への以降の推進がすすめられていますが、実際に自宅で暮らすとなると、介助時間や介助者の確保が課題となります。
札幌市では、重度の障がいがある方の地域生活を支援する札幌市独自の介助制度として、2010年4月から始まりました。
重度障がいのある方に対し、札幌市が介助に要する費用を直接支給し、それぞれのライフスタイルに合わせて介助者と直接契約を結び、自らマネジメントする制度です。
制度内容は、地自体によって多少異なるので、札幌市の制度をもとに紹介します。
どんな人が、パーソナルアシスタンス制度を利用できるの?
パーソナルアシスタンス制度を利用できる条件は、
②ご自身もしくは支援する方の責任において、介助者募集・介助方法指導・金銭管理が行える。
を、満たしていることです。
パーソナルアシスタンス制度の利用負担は?
自治体からの経済的支援を受けられるので、利用者の自己負担は1割負担です。
負担上限月額が個々に算定されるので、負担上限月額内での利用となります。
生活保護受給世帯・市民税非課税世帯の方は、無料となっています。
パーソナルアシスタンス(PA)制度の仕組み
②障がいのある方が、介助者(介助者登録が必要)を募集する。
必要に応じて、サポートセンターに支援を依頼する。
サポートセンターでは、介助者登録されている介助者の中から条件に合った介助者を紹介してくれる。
③障害のある方と、介助者の間で、介助内容や報酬について直接交渉し契約する。
④介助者は、サポートセンターで2時間程の研修を受ける。
⑤介助者は、介助活動を行う。
⑥札幌市から、障がいのある方に介助費用を支給する。
障害のある方から、介助者に報酬を支払う。
申請すると、札幌市から介助者へ直接支払う方法もとれる。
(金銭トラブルを避けるために、札幌市から介助者へ直接振り込みにするのがベター)
※サポートセンターとは
札幌市から委託を受けている民間団体で、PA制度利用者や介助者のための支援機関。
どんな人が介助者になれるの?
必要な資格はないので、誰でも介助者になれます。
(PA制度を利用する方の配偶者・三親等以内の親族は、介助者になることはできません。)
介助者になるためには、サポートセンターで介助者登録を行います。
札幌市は、あくまでも介助費用を支援するだけで、利用者と介助者の直接契約になるので、札幌市に雇用されるものではありません。
介助者は、どんなことをして、どれくらいの報酬をもらえるの?
日常生活の介助をするので、炊事・洗濯・掃除などの日常生活介助や、外出時の移動の支援を行います。
利用者の多くは、医師の往診や訪問看護なども多数利用しているので、もし同席することがあったらお手伝いすることもあります。
あらかじめ決められた介助内容というものはないので、利用者と介助者で話し合って介助内容が決まります。
私自身は看護師で、利用者は痰の吸引が必要な方であるので、パーソナルアシスタンス制度の説明を聞いて登録する際に、痰吸引に関する書面が用意されていて同意書を交わしました。
報酬も、利用者と介助者の話し合いで、契約時に決まります。
介助者によって差をつくらないために、利用者が時給を決めて提案することが多いです。
地域によって相場が違いますが、その地域のアルバイト賃金よりは高く看護師バイトの時給よりは低いくらいの金額の印象です。
利用者は、どのようにPA制度を活用しているの?
医療保険や介護保険のサービスも利用するので、まずは保険適応のサービスをスケジューリングします。
これは、ケアマネージャーがケアプランを作っていますね。
保険適応のサービスだけでは介助時間・介助人員が足りない時間帯に、PA制度の介助者に依頼してシフトを組んでいきます。
希望する時間帯に外出支援をしてくれるヘルパーを探すのも一苦労ですよね。
ライブやスポーツ観戦に同行してもらったり、買い物や映画に一緒に行ってもらったり、自身の趣味のための介助をお願いすることもできます。
介助者が、介助開始時間と終了時間にサポートセンターに音声メッセージを残しつつ、実施記録を書くことで、介助者それぞれの介助時間を算出できるようになっています。
PA制度は、利用者本人もしくは支援者が、シフトも金銭面もマネジメントすることになっているので、月末には書類を記載して提出する作業があります。
利用条件を満たせる状態であれば、気心知れた友人に介助者登録をお願いして、日常生活の介助を行ってもらいながら報酬をお支払いするということもできるので、保険適応のサービスで第三者のみが家に出入りするよりストレスが緩和されたり、家族の介護負担が軽減することにもつながります。
資格のない介助者と個人間契約になるため、保険適応のサービス提供者のような基礎を持っている人ではないこと、人間関係構築がうまくいく場合とうまくいかない場合があるので、その点は課題となっています。
人の役に立つことをやりたい方、ボランティアに興味がある方へ
医療や福祉に関する資格を有していなくても、介助者になることができるので、今の仕事に+αで何かやってみたいと思っていた方は、お住まいの自治体にパーソナルアシスタンス制度や自薦ヘルパーの制度があるか調べてみてはいかがでしょうか。
子連れでもOKという利用者さんもいるので、条件の合う方がいれば、子連れでも介助者として障がい者の支援をすることができます。
札幌市HP PA制度について
医療・福祉に携わる方へ
医療・福祉に携わっている人が、PA介助者になると、普段の仕事では見えない在宅医療の現場が垣間見えます。
在宅医療の現場を知ることで、
②外泊、一時帰宅、外出をする患者さんの支援を具体的に考えられるようになる。
③病院や施設は、患者主体とはいえ、複数の患者を1人の医療職者が看ることになるので、タイムスケジュールや優先順位が医療者主体になってしまいがち。PA介助者では、障がい者の生活の中に介助者が入ることになるので、患者主体とはどういうことか、私達はどんな役割なのか、患者本人の人生をより豊かにするためにはどんな支援ができるのか、など、より患者の生活に近いところで考えるきっかけになる。
④外出支援をすると、普段何気なく利用している街が、バリアフリーではないことに気付く。見かける障がい者や高齢者が困っている場面に気付きやすくなる。
など、病院や施設で勤務しているだけでは気付けないようなことに気付くことがあります。
これから、医療・福祉の現場にもAIが導入され、「有資格者は将来安定」「資格があればなんとかなる」という時代ではなく、「こんな人にケアしてもらいたい」と思われる人物や「人だからこそのケア」を提供できる人物が求められる時代になっていくのではと考えています。
そんな時に、個人としての経験値の差が大きくなるので、医療・福祉に携わる人にとって、PA介助者としての経験は、財産になると思います。
まとめ
介助の手を求めている障がい者の方、またその家族の方は、パーソナルアシスタンス制度を利用するという選択肢も増えます。
在宅医療に関わっている方は、介助者として活動することで経験値を上げることができますし、介助者として活動しなくても、パーソナルアシスタンス制度を知っていることで、選択肢を提案することができるようになります。
自治体による制度なので、パーソナルアシスタンス制度や自薦ヘルパーの制度がお住まいの地域にもあるのか、気にかけてみてもらえたらと思います。
参考文献
1)札幌市HP PA制度について
2)自立生活センターさっぽろ
3)「日本における重度障害者の生活支援とパーソナル・アシスタンス -理念の移入からその具現化へ-」/伊藤葉子 中京大学現代社会学部紀要 第8巻 第1号
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